伊勢市の古市は、江戸時代に江戸の吉原、京都の島原と並んで三大遊郭、あるいはさらに大阪の新町、長崎の丸山をたして五大遊郭の一つに数えられていました。
遊郭70軒、遊女1000人、浄瑠璃小屋も数軒、というにぎやかさで、「伊勢参り 大神宮にもちょっと寄り」という川柳があるほどに活気に溢れていたといいいます。十返舎一九の「東海道中膝栗毛」にも登場したほど名をはせていました。
明治期に古市丘陵を迂回する道路が整備され衰退し、現在は麻吉が旅館として1軒残るのみです。麻吉は古市丘陵の斜面に位置し、階段状の木造6階建ての風情の残る建物で、宮崎駿監督作「千と千尋の神隠し」の湯屋のモデルの一つになったようです。
江戸時代の名前は、「花月楼 麻吉」で当時の様子をそのまま残す旅館として唯一現役旅館として営業しております。この坂道を「手振り坂」といって、名残惜しさで旅立つ人、送りだす人がたくさん手が振られたことなんでしょう。
この旅館の創業は嘉永4(1851)年、創業150年余といわれていましたが、近年になって、1782年の古市街並図に「麻吉」の名があったり、東海道中膝栗毛に「麻吉へお供しよかいな」と登場することから、200年以上の歴史があると言われるようになりました。
江戸時代には多くの芸妓を抱えたお茶屋で、斜面に建つ木造6階建ての楼閣になっています。その建築様式は、清水寺と同じ、急斜面独特の「懸崖造り」。その希少性や遊郭の地の宿という面白さも手伝ってか名建築の一つと言われていて、旅館は2004年に国の登録有形文化財に指定されています。
この界隈は今、閑静な住宅街になっていますが、古市三座と呼ばれた芝居小屋の舞台では夜な夜な芸妓の伊勢音頭が披露され、参宮の無事の開放感を味わう旅人で賑っていたといわれています。
五大妓楼の一軒「油屋」で起こった色恋沙汰は歌舞伎狂言「伊勢音頭恋寝刃」で有名で、歌舞伎ファンに「古市」はお馴染みですね。
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